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問屋はいらないのか?(エロゲにおける流通の役割)

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IT Pro にこんな記事があって、とても興味深かった。

まずは冒頭の、「余裕をクライアントには見せてはいけない」という部分。今まで生きてきてそんな話は初めて聞いた。ボクの経験では、確かに余裕を見せたら、報酬を減らされたことはないが仕事は増やされる一方である。それでいてボクは周囲から見ると苦労しているように見えないらしい。遊んでいるように見えるんだそうだ。
それはボクの日記を見ている人も思っているようで、修羅場中だったり、何か問題ごとを抱えている最中だったりしても日記はすごく余裕があるように見えるのだそうだ。確かにボクはどんな状況でもその状況を楽しもうとする。厳しい状況になればなるほど、「よし、じゃぁやってやろう」という気になったり、「何か面白いことは出来ないか?」とあれこれ考え、それを実行に移す。
たまきんがいなければ、あの会社は潰れてくれたのに、どうしてくれるんですか」なんてことを実は二回ほど言われたことがある(笑)。ちなみに「周囲からはボクが救ったように見える会社」からお礼を言われたことはない。もっとも自分もそんなことはどうでもいいし、目の前にある仕事を自分なりに楽しく片付けただけである。

ただ、このボクの仕事のやり方は、ボクと一緒に仕事をしている人に悪影響を及ぼすらしい。と言うのも遊んでいるように見えるため、「あぁ、これでいいんだ」と誤解をする人がいるらしい。つまりたまきんは仕事をしていない、じゃぁ俺も仕事をしない、と思い込んでしまう人がいるようなのだ。グダグダになった highsox も、ボクのそう言うところが実は影響しているのかもしれない。

ここまではただのボクの仕事の話。ここから先が本題。
上の記事によると、問屋というのは何も商品を右から左に流すだけじゃなく、目利きとしての機能があるというのが簡単な要約である。そしてそれについてはボクもエロゲでは気になっていることがあったのだ。と言うのも、エロゲの流通や販売店でイケイケの所はだいたい社員に「目利き」がいるのだ。「次はこれが来る!」とか「この絵描きは絶対売れる」とか、ユーザの心をしっかりとつかむことの出来る目利きがいて、そしてその目利きが商品管理をするため、そのお店や流通は大もうけをすることができるのである。
そして目利きが出て行ってしまうと、その会社はだいたい凋落する。特にエロゲは商品寿命も短く、流行廃れのスパンが短いので、目利きによる会社の衰勢は何度も目にした。また、目利き自身が時代について行けなくなってしまって凋落するという場合もある。

つまりお店や流通には、商品を売りさばくだけでなく、「良い作品」を見抜く力が必要であり、そしてニーズをメーカーに伝える役目があったのである。

ボクがまだ 10 代の頃、旧スクエアが、企画などを作り手が考えるのではなく、営業・広報が考える方向に転換したとき、ボクは心の中で憤ったものだが(ボクも若かったなぁw)、しかしゲーム会社の中ではお客と一番接している営業と広報がニーズを分析し、作り手をディレクションするというのは正しい方向性だったのであろう。

ボク自身は、インターネットや物流が発達し、エンドツーエンドのアサインのコストが下がって来た今、中間マージンを取る流通などは不要だと考える人間ではあるが、作り手に世間のニーズを説明し、コーディネイトやディレクションをし、その流通が確たるカラーとコンセプトを持ち続け、「あの流通が扱う作品は必ず売れる」という実績を作り上げれば、まだまだこれからも流通というのは潰れずにやっていけるんじゃないかなぁと思ったわけである。
で、当の自分はどうかというと、ボク自身が全く無名であるという状況が示す通り、世間のニーズとか今何が来ているとか、そう言うのはどうでもいいという問題がある。そもそも上の記事にあるように「何を作ったらいいんでしょう」と思ったことがない(笑)。世間が面白いと思うかどうかは知らないが、ボクはこれが作りたい、というものが山ほどある。ただそれが売れるかどうかは知らん、と言う。だからいつまでも企画も通らず、他人のプロジェクトばかりやっているという為体なのである(笑)。

とはいえエロゲ業界ではまだまだ流通は潰れたりしないだろう。
コンシューマや海外ゲーム市場では、ダウンロードが当たり前になりつつあり、そしてさらに流通や小売りを挟まず、メーカーのサイトからダウンロードしてプレイするという流れになっているにもかかわらず、エロゲではその兆しは全く見えない(もちろんダウンロード販売も始まりつつあるけどね)。
これはひとえに、巷でよく言われる「エロゲ会社は自転車操業」というのと少し関係があるかもしれない。つまりどういうことかというと、流通や販売を専門とする会社(販社)からお金を借りてエロゲを作っているソフトハウスが多いのである。
また、倫理機構と流通の関係もあり、自己資本でエロゲを作っているソフトハウスもそのまま流通をすっ飛ばすのは難しい。その倫理機構に入っている以上、その流通を通さねばならないみたいなしがらみが起きたりすることもあるのだ(全部が全部、そうではない)。
じゃぁエロゲではダウンロード販売は無理なのかというとそう言うワケではなく、その仕組みを流通や販社が作っていくのだろうと思う。そもそもユーザにとっても、ソフトハウスごとにダウンロード通販サイトがあったのでは面倒くさい。エロゲのダウンロードといえば、ここ、と言う所に行って、そこで色々買える方が便利である。

ただここで懸念しているのは、ダウンロード販売にしてもちっとも美味しくないよ、っていうことになったらやだなぁってこと。これはエロゲ業界だと充分あり得る……orz

まぁそんなわけで、エロゲ業界では流通や販社が市場をリサーチをし、作り手に「こう言うソフトを作るといいですよ」という提案&企画&ディレクションをしているのである(笑)。なんということだ、まさかこんな狭い業界でこんなことになっていたとは!www
もっとも実は流通や販社の方から「こう言うソフトにしてください」というのはあまりなく、やはりソフトハウスの方から「こう言う企画があるんですが、お金ください」っていう場合が多い。流通はその企画内容や関わるスタッフ、原画やシナリオの人気度などを鑑み、「んじゃまぁ、これくらいだわね」と融資額を提示している。
だから流通や販社にももっと目利きを用意して、「今の絵のトレンドは、これ!」「企画内容はこう言うのが求められる」「主人公の性格はこの方がいい」「エンディングは絶対ハッピーエンド!」などなどの提案をし、そして「広報展開でこのキャラから露出して、こっちは隠して、発売日 1 ヶ月前にこのネタをバラして客をつかみましょう。なので、シナリオの展開はこうのほうが喜ばれる」というように、どうしたら売れるかと言うことをソフトハウスと情報共有しながら制作していくと、上記の記事のような、(世間的に)良い作品を作り上げ、ソフトの本数も良くなるのかもしれない。
あと無名の絵描きさんとかでも、赤字にはならないくらい売ることも出来ると思う。
世間的に……と言う言葉を付けたのは、ボクのくだらない意地である。くみ取れる人はくみ取ってくれると、これ幸いである(笑)。

さて、ところで流通と販社の違いはなんだろうか?
実はエロゲでは流通がソフトハウスにお金を出してくれることもあるが、流通部門は持っていなくても、広報をし、実際にお店を回って注文を集めてくる販社という会社もあるのだ。これにはいろいろな関係があるのだが、独立した販社と、流通の営業&広報部門を担う販社がある。
前者はソフトハウスと直接やりとりし、出来上がったソフトを広報&営業し、取ってきた注文を流通に流す、という感じだ。
後者は、ソフトハウスとのやりとりは流通が行い、その流通の依頼を受けて、営業&広報をする。注文はその販社が取る場合もあるし、流通に繋げる場合もある。
また、この両方を手がけている販社もあるし、ソフトハウスの子会社でそのソフトハウスの商品を専門に扱う販社というのもある。
前者は複数の流通と契約することが多いが、後者はだいたい一つの流通の元でやっているところが多い。

あぁ、なんだかまとまりのない話になってしまったが、ソフトハウスとしてはとにかく中間を取られているのは悔しい。かといって、その中間を抜いてしまったら、ちゃんと売れるエロゲが作れるのか?
「流通を通さなければ、もうけは倍なのに」とただ嘆くだけでなく、企画から実際に商品がユーザの手に届くまで、トータルの流れを見て、流通の役割をもう一度検討しなければならないのではないかなぁと思った次第である。

  • エロゲー卸は結構マージン取りますもんね。
    流通がやることをこなせれば採算ラインも下がるんでしょうかね。
    音楽映像系はメーカーから数%もらうだけで、薄利多売でないとやっていけないので、業界が下火になるのに比例して当然の如く苦しくなってしまいました。
    仕事は商品を卸すだけでなく、メーカーの営業代行・販売店の経営・品揃え・販促・店員教育・システム支援等、幅広くやってましたよ。 -- 難波鑑? 2009-06-08 (月) 23:47:11
  • その幅広い活動をどんどん流通の強みとして発展させていくといいのでしょうね。ただ商習慣というのもありますからねぇ。今までこうだったので……というだけでずっと続いてしまっている様々な取り決めもあります。あと上では書きませんでしたが、お客の教育というのも必要だとは思っています。自分たちの商品はどのように楽しむべきなのか、そしてどういう市場を作りたいのかをお客さんも一緒に流れに乗ってくれないと、薄利多売や、表面上だけ楽しそうにみえて、中身のないものだらけになってしまいますからね。 -- たまきん 2009-06-09 (火) 16:53:28

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Last-modified: Tue, 09 Jun 2009 16:54:20 JST (5426d)