Top > Columns > Eroge > エロゲのできるまで

はじめに

ゲームというのは完成するまでに時間がかかる。
もちろんそれはゲームだけでなく、様々な作品が日の目を見るまでに時間がかかるし、ものによっては日の目を見ることなく消え去るものもあるだろう。
そんなわけでエロゲの製作期間というものについて、解る範囲でまとめてみた。
もちろん何度も言う様に、ここでの情報はあくまでもボクが経験してきたことであり、これとは異なる場合もあると思う。ただプロジェクトを指揮していく立場にある場合、過去の様々な経験から、どれくらいかかるだろうというスケジュールを立てなければならない。 このページはそう言ったボクの経験を元にしたある意味「エロゲのスケジュールの立て方」をまとめてみたものである。

ちなみにこのコラムを書くキッカケになったのは、本来書こうとしていた「延期の理由教えます」を作っていて、そもそもエロゲがどんな順番で作られているのかを説明しないと延期の理由が書けないということに気付いたからだったりする(汗)。

更新履歴

  • 2010.12.22 関連ページに「背景 CG のファイル名の付け方」を追加。
  • 2010.12.20 関連ページに「イベント CG のファイル名の付け方」を追加。
  • 2008.04.07 とりあえず作成してみる。

関連ページ

目次

エロゲーの素材を分解すると……

エロゲの値段教えますの部分とかぶってしまうのだが、エロゲーの素材というのはだいたい以下のようなデータに分かれる。

項目種類説明
イベント画画像そのシーンを表現する、画面いっぱいに表示される映像
バストショット(立ち絵)画像現在の背景(場所)にいるキャラクタを表す画像
バストショット背景画像現在の場所を表す背景画像
シナリオテキスト物語とゲームの進行を担う文章
プログラムプログラム全ての素材をコンピュータ上で表現するためのプログラム
スクリプトテキスト全ての素材をシナリオに沿ってどのように表現するかを指示する文章
BGMその名の通り、BGM。
主題歌や挿入歌、エンディング歌、イメージ・ソングなど
効果音その名の通り効果音だが、ワンショットとループの二種類ある
音声登場人物の声
ムービー or アニメ画像(動画)そのシーンを表現するアニメーションやデモ・ムービー
カットイン画像アイテムやちょっとした小物など、大きく取り扱うまでもない画像
インターフェース画像ユーザの入力を受け付けるためのメッセージ・ウィンドウや各種ボタンなどの画像

上記のデータのうち、このページで説明するのは以下のものである。

  • イベント画
  • バストショット(立ち絵)
  • バストショット背景
  • シナリオ
  • プログラム
  • スクリプト
  • BGM
  • 効果音
  • 音声(収録期間について述べる)
  • インターフェース

カットインとアニメおよびムービーについてはこのページでは言及しない。というのも特にアニメはさらに行程が細分化されるため、そもそもアニメーションの製作過程から説明しなければならなくなる。
それにはそれで別の労力がかかるので、今回は割愛する。

一つのデータにいろんな人が関わるもの

上記の分解した素材の中には、一人でできるものと、複数の人が必ず関わるものがある。
これはどういう事かというと、一つのデータを作り上げる課程として、幾つもの作業工程があり、そのため複数の人間が関わるという意味である。
たとえばイベント画というのは、以下のパートに分解できる*1

  • 原画 -> 原画家が描く
  • イベント背景原画 -> 原画家が描くが、背景屋や CG がやる場合もある
  • 影指定 -> 通常は原画家がやるが、アニメータがやる場合もある
  • 彩色 -> CG が行う。背景は背景屋がやる場合がある
  • リサイズ -> ゲームに組み込まれる形に変換する作業。普通は CG がやるが、プログラマかスクリプタがやる場合もある
絵で分けるとこんな感じ(黒縁はトリミング枠)
原画.png
原画
表情原画.png
表情は別で描く
差分原画.png
こちらは差分原画
影指定.png
影指定
背景原画.png
イベント背景原画
背景彩色.png
背景の彩色
キャラ彩色.png
キャラの彩色
キャラ彩色_差分.png
こちらは差分のキャラ彩色
evay002.png
合成+仕上げ+リサイズ
evay002a.png
こちらはその差分

というわけで、複数の人間が関わる素材は以下の通りである。

素材(データ)関わる人員
イベント画原画家、CG、CG 監修、場合によってはアニメータ
バストショット(立ち絵)
作曲家、編曲家、作詞家、歌手、演奏家、スタジオ・エンジニア
音声声優、音響ディレクタ、スタジオ・エンジニア

なお、画像関係はすべて CG ディレクタが手を入れると考えて差し支えない。原画やそれを塗る CG、そしてバストショット背景、各種インターフェースなどなど、いろんな人があげてきたデータに対して、塗りの統一や雰囲気の統一を行う必要があるからである。
色の使い方、塗り方などは一人一人が異なるため、作品としての統一した雰囲気にそろえるのはこの CG ディレクタの役目なのである。

作業の順番

期間を説明する前に、どのような順番でゲームが作られていくかを説明しようと思う。先に説明した素材を元に、どのようにしてゲームが完成していくのかをチャートにしてみた。 横に並んでいる作業は、平行して行える作業である。
縦に並んでいる作業は基本的に上の作業が終わらないとできない作業である。
あくまでも大まかに作ったモノなので、目安程度に見てもらえるとありがたい。

work_flow.png

お気づきの方は解ると思うが、「キャラクタ・デザイン」と「あらすじ」が出来ないことには、全ての作業が止まるというのが解ると思う。また、「色決め」が進まなければその下にある絵の全ては止まってしまう。
もちろんスケジュールとの相談で、無理矢理進めることは出来るし、作り方によってはこのチャートとは異なる場合もある。
また意外に知られていないのがバストショット背景とイベント画の関係である。イベント画はたいていはバストショット背景上のどこかで行われているシーンになるため、バストショット背景のレイアウトが上がってこないとイベント原画が起こせないのだ。
そして背景の彩色が上がってこないと、イベント画の彩色が出来ないのである。

作業の順番を狂わす、広報用素材の制作

理想を言えばゲームが完成してから広報活動をするのが良いのだが、そういうメーカーは限られている*2。そのため、ゲームを作りながら雑誌社やお店を回るための資料も作成しなければならない。
この資料が、まだゲーム制作上進んでいないデータが必要だったりして、ゲーム制作の作業順序を狂わすことがある。たとえばまだ H シーンを一つも作っていないのに広報用に必要だということになり、H シーンをでっちあげることになったりする。するとシナリオ・ライターは元々計画になかった H シーンを新たに作らなければならなくなったり、ゲーム本編ではあり得ないシチュエーションになってしまい、原画さんが慌てて描き直したりなどという事故が起きたりするのである。

さらに体験版、デモ・ムービーの制作が絡んでくるともっとややこしくなる。
たとえば音声収録を体験版の部分だけ先に収録したり、デモ・ムービーのために後回しで良かった素材を先に作ったりなどの手間が増え、その分コストが増加する。特に声録りを複数回に分けるとコストの増加はバカに出来ない。

そのほかに店舗用特典(テレカや枕カバーなどの画像データ)、広告用版権画像、ポスター画像、DVD レーベル画像、パッケージ画像、マニュアル、ユーザー登録葉書、予約特典の版権物などがゲームを制作する以外にも必要なデータである。
ちなみに店舗用の特典や雑誌の見開き・攻略資料なども含め、全てメーカー側が制作を負担している。これらは全て広報活動の一環なのである。

従ってディレクタや制作進行はこれらの素材を制作することも考えて、スケジュールを切る必要がある。

というわけで各作業の期間

以下の表が各作業に対する期間である。
作業内容によって時間を基準にすべきか個数を基準にすべきかが異なるので、バラバラになってしまって申し訳ないが、こっちの方が解りやすいと思う。

作業内容期間備考
キャラクタ・デザイン1 キャラ 1 日~1 週間ゲームの顔となる部分なのでなるべく時間をかけたいが
全キャラ 1 ヶ月程度で終わらせたい所
あらすじ1 ヶ月~ 2 ヶ月1 ヶ月もあればかなり複雑なストーリーもできるはず(汗)
バストショット指定1 ヶ月他の指定と平行して行う
イベント画指定1 ヶ月半分ぐらい指定したら、あとはシナリオを書きながらすることが多い
バストショット指定1 ヶ月他の指定と平行して行う
バストショット背景指定1 ヶ月
イベント原画1 ~ 3 日/カット・80 カットで 2 ~ 3 ヶ月一人の作業時間
イベント画彩色1 日~ 1 週間/カット一人の作業ペース。全員で 80 カットを 2 ~ 3 ヶ月でやる感じ
バストショット原画1 日 1 カット以上一人での作業ペース。
人数が増えれば上がってくる枚数も増える。
バストショット彩色1 日 1 カット以上
バストショット背景レイアウト1 日 1 カット以上
バストショット背景彩色1 ~ 3 日/カット
シナリオ150kb ~ 1MB /月一人での作業ペース。
150kb の人はけっこう使い物にならないかもorz
音楽1 日 1 曲程度一人での作業ペース
1 曲に 1 週間 ~ 1 ヶ月
SE10 個以上 / 日
音声収録10,000 ワードで 1 ヶ月が目安
デモ・ムービー1 週間~ 1 ヶ月で 1 本長さは 1min ~ 3min 程度。オリジナル・アニメなし
After Effect で静止画をつなぎあわせたもの
スクリプト1MB を 1 ヶ月一人での作業ペース
インターフェース CG1 ヶ月ボタン、おまけモード、ウィンドウ類、ダイアログ類など 1 ゲーム分全て
デバッグ1 週間 ~ 1 ヶ月フラグが複雑でなければ。ガンパレみたいなのは半年以上欲しい

この表は理想値である。
実際はこれよりも時間がかかると考えた方がいいだろう。ただ、上のフローチャートで同時に作業できる部分があるのに注目して貰いたい。同時に動かせる部分は極力同時に動かして、時間を有効に使うことが大事である。

プログラムの制作期間

上記にはプログラムの制作期間は入っていない。
と言うのもプログラムというのはエロゲの場合、すでに出来上がっているからである。
プログラマさんはアドベンチャー・ゲームの基本システムというのをすでに持っており、というかこれがすでに「ある」ということを前提にプロジェクトがスタートする。もし無ければ、どこかからか借りてくるか、吉里吉里や NScript などのすでに出来上がっていて貸し出してくれるシステムを使う。
プログラマさんのやることと言えば、この自分のシステムに、新しいプロジェクト用に必要な新機能を追加したり、インターフェース CG を組み込んだりするぐらいである。

ではアドベンチャー・ゲームの基本システムを作るのにはどれくらいかかるのかというと、これはプログラマによって様々である。またどこまで凝ったモノを作るかによっても制作期間は大きく違ってくる。
ただ目安というのはあって、だいたいとりあえず動くようになるのに 1 ヶ月程度、そしてほとんどの機能がつき、実際に組み込み作業が出来るようになるバージョンになるまでに 3 ヶ月程度見ると良いかもしれない。
しかし、もし一度もそういったシステムを作ったことがないプログラマがやる場合は、一年は見ておいた方がいいかもしれない。

音声収録のより詳しいスケジュール

音声収録には多くの人が関わる。声優さん、音響ディレクタさん、スタジオ・エンジニアさんなどなど。
10,000 ワードを目安にすると、実際詳しく書くと以下のような感じになる。

作業内容期間備考
台本作成1 週間10,000 ワードの脚本はミカンの段ボール箱一つがいっぱいになる(1 セット)
収録2 週間~ 1 ヶ月
音切り1 週間~ 2 週間こちらは人海戦術がきく

ついでに音声数の目安も話しておこうと思う。
いわゆるストーリーもの、シリアスものは情景描写や主人公のモノローグが多いため 1MB のシナリオに対しての音声ワード数は 5,000 ~ 8,000 ワード程度である。
一方、萌えゲーやキャラゲーなどキャラクタの掛け合いでストーリーが進んでいくタイプは 1MB のシナリオに対して 10,000 ~ 12,000 ワードにもなる。現在はこちらの方が主流で、しかも 3MB も 5MB もあったりするのでそのワード数はとんでもないことになる。

さらに主人公が喋るとこのワード数は劇的に増加する。
目安としては他の全キャラのワード数の 50% ~ 100% 増加すると見て良い。
たとえば主人公をのぞくワード数が 10,000 ワードだった場合、主人公も喋るとなると 15,000 ワードから倍の 20,000 ワードにまで増えると考えて予算組やスケジューリングをする必要があるのである。
またこのような場合、一人の声優さんにかかる負担も大きい。毎日収録すると喉がやられてしまうし、H シーンなどでは声優さんはずっとあえぎっぱなしになるので、連続して収録することが不可能になる。
そういった要素も加味しなければならないため、ワード数が増えれば増えるほどスケジューリングは難しくなってゆく。

人間は機械じゃない

さらに重要なのは、各担当者の精神状態である。
ゲーム・クリエイターは恥ずかしながら非常にナイーブであり、精神的にもろい一面を持っている。従ってひょんなことからモチベーションが下がり、全く上がらなくなってしまったり、予想もしなかったようなことで突如怒ったり、落ち込んだりして、作業を止めてしまうというトラブルが多い。
だから制作進行やディレクタは制作に関わるメンバーの性格についても充分に知っておく必要があるし、問題が起きた場合にどうするかというのを頭の中でいつも考えていなければならない。
また、メンバー一人一人が気持ちよく作業が出来るように気を配る必要もある。

  • 夜遅くまで残っているメンバーがいたら、一緒に付き合う
  • ご飯に連れて行く
  • 一緒にゲームをする
  • 愚痴を聞いてやる
  • 出来上がった制作物を褒めてやる
  • 出来上がった制作物のレベルが低かったら、悪口を言うのではなく、それについてお互い議論する

などなど、ケアの仕方は人によって様々だし、逆に相手にしすぎると鬱陶(うっとう)しがられて嫌われてしまうこともある。
せっつき方も、毎日のように「出来てますか?」とせっつく方が良い人もいるし、声をかけずに一人にしておいた方が上がってくる人もいる。
ご機嫌を伺ったり、あるときは怒ったりしながら、ゲーム制作というのは進んでいくのである。

ダメな制作期間(笑)

ボクが体験した、ひどい制作期間をまとめてみた。

作業内容期間コメント
原画1 カット以下 / 月大先生に多い。せっつくと仕事自体を降りてしまう(笑)
シナリオ100kb 以下 / 月シナリオは一番目に見えにくい作業である。
そのためか一度止まるととことん書けない人が多い。
スクリプト100kb 以下 / 月こちらは往々にして、シナリオさんがまったく指定を入れてない場合がほとんど。
スクリプタはシナリオを読みながらどこに何の画像を入れるか想像しながら
作業を進めなければならない。

あと同人上がりの原画家さんは【影指定ができない】【背景が描けない】ことが多い。そのため影指定にアニメータさんを雇ったり*3、背景に背景屋さんを雇ったりすることがある(コスト増加につながる)。また難しいパースなどは(極端なあおりや超パースなど)、背景屋さんが手伝うことも多い。
同じく自己流であがってきたシナリオさんは、自分の得意とするキャラクタ以外が情景描写も含めて書けないことが多い。他にも小説上がりの人やアニメの脚本上がりの人は、ゲームの画面を想像してシナリオを書くと言うことを知らないので*4、テンポや科白(セリフ)と情景描写のバランスなどがおかしくなり、実際に画像を組み込んでみると整合性がとれないことが多い*5

でも振り返ってみると、いつも遅れるのはこの原画かシナリオどちらかのような気がするなぁ。CG は遅れたのはあまりないし、そもそも遅れても他の人に頼めるから、クオリティ面では心配はあるものの、「上がる」「上がらない」のレベルではあまり心配ない。
同じく「背景」「BGM」「声録り」なんかで停滞したこともない。

まぁこのあたりの四方山話(よもやまばなし)は別記事に譲ろう。

おわりに

相変わらず前置きが長く、核心を話すまでに時間を要するページであることをお許し願いたい。
ことこういう情報は例のコストの件も含めて「前提条件」や「前提知識」が必要であることを理解してもらえるとありがたいのである。もちろんそれは何もエロゲに限ったことではなくて、道路を造るにしても家を造るにしても映画を作るにしても……なんでもそうだと思う。

少しでもエロゲについて知識を得て頂き、買ったエロゲを大事にして頂ければ、制作者としてはこれ幸いなのである。


*1 ただし本当に期間がある場合、そしてこだわりたい場合は以下の行程をすべて一人でやっているメーカーもある。原画家が CG までやるので一貫したクオリティと作品の統一感が出、何よりもゲーム全体がその原画家さんの雰囲気に包まれる。
*2 ちなみに完成してから広報活動をするメーカーは実在している。
*3 優秀な CG チームを抱えている場合は、影指定は不要である。また最近は影指定無しで CG さんに任せっきりにする場面も増えているようである。
*4 ここでは別にアニメの脚本家や小説家のレベルが低いと言っているわけではない。あくまでも書き方が違うために、彼らの作り方で作るとゲームで使うのは難しいという意味である。
*5 この表現は難しいニュアンスで、そのためにわざわざ別ページで説明してもいいくらいのものなので、とりあえずここではこの程度の説明にとどめる。

リロード   新規 下位ページ作成 編集 凍結 差分 添付 コピー 名前変更   ホーム 一覧 検索 最終更新 バックアップ リンク元   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: Wed, 22 Dec 2010 02:26:28 JST (2290d)