青梅街道から、五日市街道へ。広い三車線道路は、遥か右手へ逸れ、少し閑散とした道路へと雰囲気は変わった。とはいっても、これらの道路に車が通ることなど、もうないのだけれど……。

 荒れた五日市街道をしばらく走ると、玉川上水と平行する。街道は、上りと下りに別れ、上水をはさむように続いている。

 私は、少し走ったところで自転車を止めると、一息ついた。

 道はひび割れ、その隙間から草たちが延びている。右手に流れる川、玉川上水は、私が前ここに来たときよりも広く、大きくなっているような気がする。

「変わってしまったなぁ」

 私は、そんなことを口ずさんでみた。

 別に誰かが聞いているわけでもなく、草花が答えてくれるわけでもなく。でも、このせせらぎは、ずっとここを見てきたんだと思うと、何となくそんな言葉が出てきてしまった、らしい。

 私は自転車を降り、荷物を投げると、もうボロボロになった柵を難なく越えた。草地を分け入ると、冷たい水が、私の足をいやす。まだ家を出てから30分ぐらいしかたっていないけれど、初夏の日差しは充分暑い。

 私はそのまま、玉川を散策した。

 散策と言っても、川幅はわずか5m。これでも、昔に較べて2mぐらい広くなったと思う。まだ街道に車が走っていた頃は、ここはチャンと手入れされていて、その反面川も大きくなることは出来なかったから。

 でも今は、少しずつ、少しずつ、この川は成長しているような気がする。

 私は、しばらく上流の方に歩いてみた。草と草の間からのぞける水面には、アメンボたちが悠々とスケートを楽しんでいる。でも私の影が、スッとその上をよぎると、蜘蛛の子を散らしたようにどこかへ行ってしまう。

 オタマジャクシたちはもっと敏感で、ちょっと波紋を立ててしまっただけで私から離れてしまった。

「人って、どこに行っても嫌われ者なんだなぁ……」

 少し寂しくなって、私は天を見上げた。

 空が広い。

「そうか、電線がないんだ」

 空は横に広がっているものなのだ。

 どれくらいの時間が過ぎただろう……。私は、おもむろに川から上がると、自転車のある場所まで戻った。まだ日は高い。そうそう、これから小金井の方に抜ける予定だったのだ。

 私は自転車をバックに、玉川上水を軽くスケッチすると、また荷物を背負った。

「変わったなぁ……」

 私はもう一度そうつぶやいたてみた。でも、変わるから、面白い。変わるから、今の風景をとっておきたいと思うのだろう。私はペダルに力を入れると、そのまま五日市街道を下って行った。

1996/06/25(tue)

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Last-modified: Thu, 06 Mar 2008 19:59:26 JST (5887d)