この業界にいると、もちろんお金の計算もしなくちゃいけないのだけれど、新しい外注さんなんかとやりとりするときにどれくらいの報酬でやるのかというのがいつも問題になってくる。
相手が別の業界から来た人や初めての人だと、相手も相場が解らないので、なかなか決めるのに時間がかかってしまったりするのだ。
またボクが直接関わらなくても、方々から「○○の作業っていくらぐらいが妥当ですかね?」とよく聞かれる。
この状況を鑑みるに、要するに相場というものはおそらくないように思われる。
でもボクが交渉するときはだいたい自分の相場というものがあって、それを元に「これくらいでどうですか?」って話をするので、ボクの相場というのをまとめてみた。
なおここの数値はボクが 10 年間、いろんなプロジェクトを動かしてきて、いろんな外注さんたちと出会って得てきた情報で、必ずしもこの数字が正しいとは言えない。ただ今までやってきて特に文句を言われたことはないので、妥当な数字なのではないかなと自分では思っている。
更新履歴
- 2009.06.11 関連ページに、このページの一年後の感想を追加
- 2008.04.07 関連ページに「エロゲのできるまで」を追加
- 2008.03.23 関連ページへのリンク追加
- 2008.03.15 以下の修正と追加
- イベント原画の有名作家の値段の桁を間違えてたので訂正
- バストショット(立ち絵)の原画の値段が抜けていたので追加
- 差分の概念と料金を追加
- 2008.03.09 とりあえず作成
関連ページ
目次
そもそもどういう内訳があるの?
ゲーム制作にはどういうところにお金がかかるのか?
そこの所から明確にしていこうと思う。
ちなみにボクは営業・広報をしたことがないので、残念ながら広告費などはここで示すことはできない。このページで示されるのはあくまでも【ゲームそのものを作るお金】である。実際にはこれ以外に、広報営業費と製造費がかかってくる。
広報営業費は実際に店を歩いて、ビラを配ったり商品説明をしたり、雑誌に広告を載せたり、雑誌の記事を提供したり、ウェブサイトを作ったりなどなどの諸経費である。
製造費とは箱やメディア(DVD や CD-R)のプレス代、プロテクト代、マニュアルやアンケートはがきの制作などである。
エロゲーの素材を分解すると……
エロゲーの素材を分解するとだいたい以下のようになる。
項目 | 種類 | 説明 |
イベント画 | 画像 | そのシーンを表現する、画面いっぱいに表示される映像 |
バストショット(立ち絵) | 画像 | 現在の背景(場所)にいるキャラクタを表す画像 |
バストショット背景 | 画像 | 現在の場所を表す背景画像 |
シナリオ | テキスト | 物語とゲームの進行を担う文章 |
プログラム | プログラム | 全ての素材をコンピュータ上で表現するためのプログラム |
スクリプト | テキスト | 全ての素材をシナリオに沿ってどのように表現するかを指示する文章 |
BGM | 音 | その名の通り、BGM。 |
歌 | 音 | 主題歌や挿入歌、エンディング歌、イメージ・ソングなど |
効果音 | 音 | その名の通り効果音だが、ワンショットとループの二種類ある |
音声 | 音 | 登場人物の声 |
ムービー or アニメ | 画像(動画) | そのシーンを表現するアニメーションやデモ・ムービー |
カットイン | 画像 | アイテムやちょっとした小物など、大きく取り扱うまでもない画像 |
インターフェース | 画像 | ユーザの入力を受け付けるためのメッセージ・ウィンドウや各種ボタンなどの画像 |
画面的には以下のような感じになる。もっとも、上の素材全てを表現することはできないが(汗)。
制作スタッフにはどういう人が必要なの?
次は上記のデータ、誰がどう分担しているのかを表にしてみた。
役職 | 関連するデータ | 説明 |
ディレクタ | - | データの制作には関わらないが、いわゆる映画の監督。 ただしエロゲ業界では以下のいずれかの役職の人が兼ねることが多い |
原画家 | イベント画,バストショット | 元の絵を描く人。塗り絵の原画を描く |
シナリオ・ライター | シナリオ | 物語を書く人。スクリプタを兼ねることが多い |
プログラマ | プログラム | プログラムを書く人。スクリプタを兼ねることが多い |
スクリプタ | スクリプト | プログラムの仕様にあわせてスクリプトを組む人。演出もやる |
CG 監修 | 全ての画像 | 全ての画像の統一、仕上げ、クオリティ・アップなどをする |
CG 彩色 | 全ての画像 | 原画に色をつけたり、ボタンなどを作ったりする |
背景屋 | バストショット背景,イベント画 | バストショット背景を描く人。場合によってはイベント画の背景もやることもある |
作曲家 | BGM,歌 | 音楽を作る人 |
音屋 | 効果音 | SE を作る人。作曲家が兼ねることが多い |
声優 | 音声 | その名の通り、声優さん |
音響ディレクタ | 音声 | 各声優さんのしゃべりを調節したり、イントネーションの説明などをしたりする人 |
アニメータ | ムービー or アニメ | アニメ部分を作る人たち。撮影なども全部含む |
演出家 | ムービー or アニメ | デモ・ムービーやアニメ・シーンの絵コンテを切る人 |
デバッガ | - | ゲームの動作チェック、クオリティ・チェックなど |
制作進行 | - | スケジュール通りに動いているか管理する人。ディレクタかプロデューサが兼ねることが多い |
値段の決め方は二通りある
さて、外注さんに上の作業をやってもらうにあたって、値段の種類は二つある。
それはどの業界でもおなじみの【単価計算】と【グロス計算】である。
単価は実際に発注時に個数を決めて、一ついくらでやってもらう。
グロスはお願いする数を出して、それを総計してやってもらう。
業界的にはグロスの方が安く付くと信じられている。
というのも、枚数が途中で増えたりしても基本的には値段は変わらないからだ。プロジェクト進行上、急に素材が追加されたりすることがある。グロス計算だと基本的にプロジェクト単位で受けてもらうので、少々増えても金額が増えることはない。
ただ契約によってはもちろん増えたら、一つあたりいくらと規定する場合もあるが、その辺を有耶無耶にする経営者は多い。
したがってグロス計算だとプロジェクト途中で素材が増えた増えないなどの関連でトラブルが起きることがよくある。だからボクはいつも高く付いても単価計算でお願いしている。
ではお値段!
項目 | 単価(円) | 備考 |
イベント原画 | 8,000 ~ 15,000、50,000 ~ 80,000 | 左は通常の値段。右は売れっ子を使った場合 |
イベント CG | 10,000 ~ 30,000 | イベント内の背景を彩色するかどうかで変わってくる。 また塗りも、アニメ塗りかぼかし塗りか、影指定があるかないかで変わる |
バストショット原画 | 3,000 ~ 10,000 | 立ち絵はがくんとさがる。顔の中が変わる分には値段は変わらない 服装、ポーズが変わると 1 カットとみなす |
バストショット CG | イベント画CG の 1/2 ~ 1/3 | 塗りの方向性をイベント画に会わせるので、イベント画の値段に左右される |
バストショット背景 | 15,000 ~ 50,000 | TV アニメ級~劇場級まで様々 |
シナリオ | 1000 円 /1kb | まさしく1 バイト 1 円。ただしあらすじや設定などはお金を出してくれない |
プログラム | 150,000 ~ 2,500,000 | アドベンチャーならこんな感じ。アクションや麻雀などはもっと高くなる |
スクリプト | 150,000 ~ 300,000/1MB | シナリオ 1MB あたり 15 ~ 30 万円 |
BGM | 10,000 ~ 50,000 | 最近は \25,000 以下が圧倒的に多い |
歌 | 100,000 ~ 1,000,000 | 実はピンキリ。有名人を使うといくらでも金をかけられてしまう |
効果音 | 1,000 ~ 5,000 | 一度作るとその音は他の作品にも使われてしまうので、けっこうつらい |
ムービー | 100,000 ~ 10,000,000 | こちらもピンキリ。これは凝るほどお金が飛んでいく。 アニメを起こしたりして、背景とかが動き回るととんでもない値段に |
アニメーション | 1,000,000 ~ | ちなみに 30 分の TV アニメは 800 万~1500 万 |
カットイン | - | これは通常社内で作成することが多い。もし外に出すなら、1 個数千円程度 |
音声 | - | こちらは誰を使うかによってそれこそ値段が全然違うので数値化は難しい |
インターフェース | 100,000 ~ 200,000 | こちらも社内でやることが多いが、外に出すとこれくらい |
デバッガ | 5000 ~ 10000/ 日 | 社内みんなでやることが多い。手が足りないときはバイトを雇う |
これとは他に、以下のような金額を計上することがある。
- ディレクション費(月 \100,000 ~ \300,000)
- CG 管理費(月 \100,000 ~ \300,000)
- 企画料( \300,000 以下)
差分という概念
同じシーンでもキャラクタの表情が違ったり、腕がちょっと動いたりすることがある。
これを【差分】と言って、画面のどれくらいの領域が書き換わるかによって追加料金が発生することがある。
お金が発生しないのは、目安としては 1/3 以下の面積。
これよりも大きい面積を書き換える場合は、別料金として加算される(イベント原画だと 1000 円~ 5000 円程度)。しかもその差分が 1 枚だけでなく何枚もあるとそれに応じて値段はどんどん加算されていく。
ボクが経験したものだと、原画 15,000 円・彩色 25,000 円の合計 40,000 円はずなのに、差分のせいで 25 万円とかになっちゃったのを見たことがある(笑)。
ロイヤリティはないの?
原画家、シナリオ・ライターに限ってはロイヤリティが発生することがある。
だいたい 0.5% ~ 3%。
また、何千本以上からという条件が付くことが多い。
なお声優さんはそれとは別に、売れた本数ではなく二次使用などに支払う必要が出てくる。たとえばコンシューマへの移植や、1 と 2 をセットで作り直す、リメイクなどなどそのたびに最初の録りにかかったお金をベースに何%という感じで発生する。
版権サイズ
広報費などに含まれてしまうが、ポスターやテレカや広告、雑誌の見開きなどの紙媒体を前提とした素材はゲームよりも画素が細かいため、値段が異なる。
原画:\15,000 ~
彩色:\25,000 ~ \80,000
原画は特に広報用となると、売れっ子を使っているととんでもない値段になる。
ボクが知っている最高額は 1 枚の原画で \350,000 。
ただこういう人は、この人の名前で 1 万本以上呼び込めるような人である。
何本売れると儲かるの?
問屋(流通)の取り分は定価のだいたい 40% ~ 60%。
これはメーカーとの力関係に左右されることが多い。最近は流通がメーカーに制作費を出したりしているので、そう言う場合、流通の力が強い。逆にコンスタントに売れている堅実なメーカーや強力な絵描きを抱えているメーカーは流通よりも強い力を発揮することができる。
さらに重要なのは、メーカー直販(通販の類)。
通販は流通を通さないので、売った金額がそのままメーカーに入る。
したがって通販が強いメーカーは安定した収入を得られる。流通の卸値の倍くらいと考えればいいかもしれない。
たとえば定価 8800 円のソフトを見てみよう。
流通の取り分が 50% だった場合、メーカーに入るお金は 4400 円である。
なお流通は 8800 円で小売り(お店)にそのまま卸すわけではない。たくさん売ってくれる小売りほど卸値は安くなる。
たとえば 6500 円で流通が卸した場合、流通のもうけは 1 本あたり 2100 円。
お店はこれをいくらで売るかで、もうけが変わる。8800 円の定価で売れば 2300 円、7200 円で売れば 700 円という具合だ。
で、メーカーの方だが 1 本 4400 円であれば 1 万本売れれば 44,000,000 円入ってくることになる。3000 本なら 13,200,000 円。
制作に 5000 万円かかってしまったら、11,400 本は売れないと元が取れないことになる。もちろんこれらは広報営業費・製造費も含めなければならない。
また、その人が関わるだけで 1 万本も売り上げが上がる原画家さんを使う場合、その人のために 4000 万円かかってもペイできることになる(もっとも 4000 万だとおいしくはないが)。
なおビッグタイトルと言われる 10 万本作品なら、4 億 4 千万円ということになる。もっともビッグタイトルを出せるメーカーというのは 50% 以上もらえそうだから、もっと高いだろう。
結論
こうして見てみると解ると思うが、やはり【相場】というのはあまり意味をなさないというのが解ると思う。
結局値段を決めるのは担当する【人】が【誰であるか】である。
しかもスケジュール通りに行かないことも多く、そうなると期間ばかり経ってコストがどんどん増加していく。
使う人によっては途中でやめられたり、逆ギレされたり、違う仕事を入れられたりと、別のコストもかさんでいく。
そんなわけで、ボクが値段を決めるときもその人の今までの実績やその人の人当たり(性格など)などを加味して決めていく。
また同人ソフトや一部のソフトは、「ゲームを作りたい」という欲求につけいって値段を決めているメーカーや流通もある。そう言う場合は 1 本 300 万円からなんていう所もあるようだ(あとはロイヤリティでがんばれ、みたいな)。
というわけで、エロゲの値段、いかがだろうか?
意外に儲からないというのを知っていただけるとこれ幸いである。どうしてかというと、たとえば東証一部上場をしている売り上げ 100 億円の企業にエロゲで対抗しようとしたら……10 万本ソフトを年間 22 タイトルも出さなければならないのである。
もし売れた作品を作ることができたら、うまく版権ビジネスに移行し、様々な媒体に展開することがとても大事であったりするのである。