目に見える仕事と目に見えない仕事

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結局今日はシナリオ・ライタが出社してこなかった(ぉ
大丈夫か!?(笑)<笑い事じゃない
というわけで今の事務所に移ってくるときに抱いていた不安と、目に見える仕事・見えない仕事について、もう少し詳しく触れておこうと思う。

去年の 9 月までいた会社は、それまでの日記を見ると解る通り、同時に 3 ~ 4 本のタイトルを動かしていた。その頃の池袋班のメンバーは 7 人。もちろん 7 人でそれら全てを動かしていたわけではない。ボクらが動かしていたのは「いろは~秋の夕日に影ふみを~?」という作品一つだけである。
これとは別に、本社が動かしていたタイトルの「最終組み込み」をボクらはおこなっていたのである。
「最終組み込み」とは何か?
それはつまり「プログラム」「スクリプト」「デバッグ」の三つである。
そもそも本社は社長が有名な原画家であるし、アニメ&絵描きさん方面にはものすごく強いコネクションを持っていた。そのほかその下にいる人たちは有名な壁サークルだったりとか、有名な音楽集団にコネクションのある人だったりとか、とにかく素材を作ると言うことに関しては一流の人たちがいたと思う。
で、そこで上がってきたデータというのを一気に組み込み、ゲームとして仕上げるのが池袋班の仕事だったのだ。
ただボク自身はそれとは少し違っていて、本社からあふれ出た CG や背景などの間に合わない作業を、ボクのコネクションを使って蒔いたり、本社がラインを増やすときにどうすればできるかなどをアドバイスしたり、オーバーワーク時に急遽人を手配したり、足りないシナリオを加筆したり……と言ったことをしていた。

まぁそんなわけで池袋班はゲーム制作の最後の最後を担当していたのである。
これがどれくらい過酷か?
ゲーム制作というのは遅れるものである(笑)。
しかし発売日は絶体ずらせないというのが、本社の財布事情だった。
と言うことは遅れたらどうなるのか?
それはすべてボクらの作業時間が短くなるのである。
ボクらの担当はスクリプトとプログラムとデバッグだ。と言うことはボクらの作業時間が短い=バグが出るという非常にシビアな環境だったのだ。
だがボクがこの会社に入って 2 年間、バグらしいバグは出していないし*1、回収にもなっていない。
それだけボクら池袋班はやりきったと思っているし、頑張ったと思っているし、そしてきっと本社の役に立っただろうと思っている。
実際そうだったのかどうかは本社の人のみぞ知るわけだけれども、様々な遅れや失敗の理由をボクたち池袋班に押し付けて来た所をみると、きっとボクらのことをよく思っていなかったと思う。

まぁそれはさておき、この池袋班の仕事というのは確かに大変なのだが、実は「よく目に見える仕事」なのである。
何故かというと、全てのデータが見えるからだ。
最後の組み込み&プログラムということは、「CG を何枚組み込み」「BGM を何曲組み込み」「音声は何ファイルあり」というのが全て見える状態で作業がスタートする。もちろん最初から全てのデータがそろっていると言うこともないし、途中から「やっぱりこれを追加して」なんていう無理難題もあったけれども、作業する人は何をすればいいか一目瞭然だし、どうすれば完成なのかが解る。
全てのデータを組み込み終わり、バグが出なかったら完成である。
この解りやすい目標は、仕事をする上で非常に楽なのである。だからどんなに過酷な状況になっても、「あれとこれをやれば終わり!」っていうのが見えるし、見えやすいから「その期間じゃできません」と言い切ることができる。
そしてボクが池袋に集めたメンバーというのも、こういう「何をすればいいか見える」仕事ならば問題ないという人たちを集めたのだ。
それには理由がある。
なぜなら、ボクの知り合いっていうことになるとみんなもう 20 代後半~ 30代の人だ。
本当に使えるヤツだったら、フリーでやっているヤツをのぞいて、絶体どこかの会社に所属しているはずだ。
ところが「今から急に仕事を頼みたいんだけど」という状況で、すぐに YES って答えられる人ってことは、簡単に言ってしまえばスキルのある程度あるんだけど定職につけなかった人たちであり、そしてそれの意味する所は、その人たちは何らかの問題を持っていると言ってもいい人たちということなのである。
けれどボクには確信があった。
目に見える作業なら、絶体彼らのスキルは光る。彼らの一つ一つのスキルはボクよりも優れているものがたくさんあるし、ボクよりも多くの知識を持っている。そもそも彼らが(くすぶ)っているのは、とてももったいないことだとずっとボクは思っていたのだ。
そしてそれは功を奏し、年間 10 タイトルと言うような馬鹿げたスケジュールをこなすことができたのである。
そして、社外から見たら池袋班はとてつもない集団に見えたに違いない*2

しかしながらボクらが今いるこの事務所の仕事は、0 からゲームを作らなければならない。
前日の日記に書いたが、今の事務所では、どこまでやればいいかは全て自分たちで決めなければならない。
作業内容を自分たちで決めなければならないのだ。 手を抜こうと思えばいくらでも抜けるし、凝ろうと思えばいくらでも凝れる。
そして一度手を抜くことを憶えてしまったら、どこまでもズルズルと行ってしまうのが今の事務所の環境なのだ。
正直、ボクはずっと不安だった。
そしてどうもその不安は的中しつつあるように見える。今ここでプロジェクトを停止し、仕切り直しをしたいと叫びたいほどに。
だが、彼らを動かすのもボクの仕事である。
前の会社で、あれほどまでの仕事っぷりを見せたのだから、今度は自分たちで 0 からそれをやって見せなければならない。
その期待に答えられるか。

正直な事を言えば、こんな部分でゲーム作りが止まる方が馬鹿らしいと思っている。もっと面白く、もっとすごくしてやろうと思って止まるならまだいいが……ただ残念ながらボクたちの部署はまだ実績も出していないし、何本売れるかも解らないような部署だ。だから今はそんなことよりも、スケジュール通りにきっちりあげることを優先すべきなのである。

そんなわけで目に見える作業と目に見えない作業について少しでも感覚で理解してもらえるとありがたい。目に見える作業だけ仕事ができても、ゲームは作ることはできない。自分で考えて、どこまでやるかを自分で見極めることこそが、ゲームのクオリティを決め、クリエイターのゲームへの愛が決まるのである。

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*1 環境依存、及びプロテクトに関していくつかの問題はあったが、それらは個別対応となった。
*2 前の会社をやめたと言ったら、いろんな人に「たまきんがいなければ、あの会社はもっと早く潰れていたのに、なんとかしちゃうから」とよく言われた。果たして本当にそうだったのかはボクは解らないが。

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