マスターアップ後に広報するメリットってないの?

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ボクが理想とする開発環境の一つに「マスターアップしてから営業・広報活動をする」というものがある。
ゲーム業界に入ってもうずいぶんと経つが、そのような環境の会社に入ったことはない*1
ボクが今まで聞いた噂では、アリスソフト日本ファルコムがそういう体勢らしい。
確かめたわけではないので本当のところはボクも知らないが、日本ファルコムについては実際にそこにいた人からそうだと聞いたので、全てではないにしろ、基本はそうなのだと思われる。
では「マスターアップしてから営業・広報活動をする」ことにどんなメリットがあるのか? それは主に二つである。

  1. 発売日が延期されることがない。
  2. 開発メンバーが開発中に営業・広報に関係する作業をしなくてよい。

1 番目はどちらかというとユーザーやショップ・流通に対してありがたい要素である。2 は開発スタッフにとってありがたい要素である。

ボクは毎週水曜日に広報営業会議というのに出ている。ここでは実際に雑誌社やショップ、流通を回っている広報さんや営業さんと席を共にする。そこでせっかくなので、上記のような開発体制を考えたことはないかとちょっと聞いてみた。
すると、以下のデメリットがあることがわかった。

  1. 発売日が決められていないと、開発がずるずると遅延するし、信用できない。
  2. 資金回収までの期間が長くなる。
  3. 旬を取り逃す。

まず上記のデメリットとは別に、そもそもそんな考えは営業・広報にはあまりないというのが解った*2。で、1 は開発メンバーも実は解っていることである。発売日が決まっていても開発というのはズルズルと遅れていく。どこかで無理矢理期限を切る仕組みがないと、基本的にクリエイター達は時間をどんどん使ってしまうのだ。
2 に関しては開発メンバーのもっとも関心の薄い部分である。特に外注ではなく社員は「給料が自動的に出てくる」と思っている人が少なくない。だが実際は運転資金と発売スケジュールは非常に密接な関係がある。ゲームが完成するまで待っていたら、会社は潰れてしまうのである(笑)。
3 に関してはなかなか難しい。たとえばツンデレ・ブームとか SF ブームとかファンタジー・ブームとか、エロゲにも色々と旬がある。もちろんその旬そのものを作り出せるメーカーもあるのだが、多くのメーカーは時流を眺めつつ、それに合わせた作品作りをする。
開発が終了してから営業・広報をすると言うことは、それだけ発売までの期間が長くなり、旬が終わった頃に作品が発売される等と言うことがあり得るわけだ。また、作品そのものにだって旬はある。マスターアップしてすぐに出せた方が、クリエイター達の感性がよりダイレクトにユーザーに伝わるというものだ。
そして営業・広報に言わせれば、それらのデメリットを抱えてまで、マスターアップ後に営業・広報をするメリットを享受できないというわけである。

実はこれ以外にもまだデメリットがある。
それは開発要員確保の部分だ。マスターアップ後に営業・広報が始まると言うことは、広報素材*3の制作はマスターアップ後となる。つまり雑誌のインタビューや原画さんの描き下ろし、ウェブで配布するダウンロード物*4などは開発終了後に仕事が発生することになる。
マスターアップが終われば、開発スタッフは次の作品にも取りかかっているはずで、結局開発をしながら広報用の素材を作るという部分は変わらないのである*5
またさらに開発スタッフに外注がいる場合、マスターアップ後も広報素材を作るために彼らを拘束する必要があり、時間当たりのコストが伸びてしまうのだ。

まぁそんなわけで、全体的に鑑みると、「マスターアップ後に営業・広報」という体勢はメリットがあまり見出せないということのようだ。

だが、営業・広報側にもメリットがある。
何せゲームがすでに完成しているわけだから、商品説明がしやすいし、作品の中身について深く知って貰うことが出来る。また、内容に合わせた広報展開もしやすくなる。
思うに、営業・広報と開発というのは決して仲がいいモノではない。やはりどうしても素材やスケジュールで揉めたりすることがある。だがボクが見てきた経験では、開発側の歩み寄りが少ないように思えた。
開発メンバーは基本的にゲームを作ることが仕事である。
営業や広報というのはそれを売ってくる人たちではあるが、同時にエロゲが好きな人も多い。だから開発がどのようにして行われているか興味を持ったり、有名な絵描きさんやシナリオさんと交流が持てることをすごく喜んだりする。
ところが開発の人間はゲームしか見えていないことも多く、ゲームをお金に換えるためには何が必要で、何をすればいいのか、と言う部分にはあまり興味がない。だから広報や営業の人が「○○日までに○○を用意してください!」とか言ってきてもそれを疎ましく思うことが多いのだ。
もし開発メンバーが(少なくともディレクターが)、営業・広報の活動内容を熟知することができれば「マスターアップ後に営業・広報を開始する」という開発体制はそのデメリットもうまく消化できるのではないかと思った。

  1. 広報素材はプロジェクト開始時点である程度計画しておく。
  2. 販売計画・広報戦略についてディレクタ・プロデューサー・原画・シナリオ・営業・広報で前もって情報共有をしておく。
  3. マスターアップしてから 3 ~ 4 ヶ月後の時流や旬を想定する。

こうすれば、デメリットはだいぶ解消すると思われる。
だがやはりどうしても「資金回収までの時間が長くなる」のは免れない。
これに関しては少しずつずらしていくということを考えている。つまり最初の 4 ~ 6 タイトルは今まで通りの開発体制で行くのだが、プラスが出始めた段階で(1 本目から黒字のメーカーはあまりない)、営業・広報開始時期を 1 ヶ月ずつ遅らせていくのだ。たとえば 1 ヶ月ずらせば、マスターアップしてからさらに 1 ヶ月後に発売となる。

ここで重要なのは、そのマスターアップも 1 ヶ月伸びてしまったらダメだと言うことだ。

それではいつまで経っても状況は変わらない(笑)。
まぁそんなわけで、最終的に 6 ~ 8 タイトル目とかに営業・広報開始時期を 3 ~ 4 ヶ月遅らせてスタートできれば、「マスターアップ後に営業・広報を開始する」という体制が整えられると思う。そしてそうすると、開発メンバーも営業・広報も幸せになれるんじゃないかなぁと思う。
でもこれを実現するためには、3 ~ 4 年かかる。
たとえば 1 年に 2 本出しているメーカーなら 3 年目にしてやっと一ヶ月ずらすことが出来るわけだ。気の長い話だなぁ……。しかも、開発スタッフがそのずらした一ヶ月を食いつぶしてしまう可能性は充分にある。

おっなんか、やっぱり無理な気がしてきたよwwww!<落ちてねぇ

  • その問題については私も知人と話し合った事があり、製作者サイドの方でCM公開時期を完全に把握できるメリットは大きいとは思うけど、マスタアップを早めても結局発売までに弄りたい部分が出てくると思うので、中々難しそう…という結論にww -- まる。? 2008-06-27 (金) 06:25:30
  • まー結局そこですかねぇ(汗)。でもディレクタやプロデューサーがしっかりしてれば、もう ROM に焼いて取り上げちゃうとか、アーカイブ作っちゃってそれはもうディレクタが管理するとか方法はあると思います。もっとも、ディレクタやプロデューサーがいじりたがりだと、ダメですが(ぉ -- たまきん 2008-06-27 (金) 16:31:02
  • いやだから、作る前からプランナの頭の中にゲームが出来上がってれば問題ないんだってw -- L.Entis 2008-06-28 (土) 02:33:00
  • ゲームは団体作業だからねぇ。プランナーがそうだとしてもその意図通りにならない要素が多すぎるかなぁ。あと確かにモーツァルトの譜面には修正されたあとというのはほとんどないけど、歴史の長いクラシックでもそんな人は五本の指で足りるからねぇ(あとはワーグナーとロッシーニぐらい?)。 -- たまきん 2008-06-28 (土) 05:06:59
  • たまきさんの意見には大納得です。 ただ商品の性質上、遅くなるデメリットよりも先に商品を広く知らしめるメリットの方が強いですからねぇ…; -- 阿修羅? 2008-06-30 (月) 04:47:15
  • 営業・広報には作る楽しみを、開発者サイドには売る楽しみを、それぞれ分かち合って協力し合えるといいかなと思ってりまする。 -- たまきん 2008-06-30 (月) 08:50:54
  • 延期をありがたがるユーザーがここにいたりして(資金繰りの関係上)。アリスや全盛期のエルフだったら開発ラインがいくつもあったから良かったんでしょうけど、ほとんどのブランドは大変なんでしょうね。僕は音楽・映像ソフト系ですけど、宣伝・営業の人と接することが多かったので、対象物が変動するエロゲー屋さんの広報・営業の方のご苦労はわかります。結局一人一人がお金の問題を自分のこととして受け止めることからしか、動きは変わらない気がします。 -- 難波鑑? 2008-06-30 (月) 13:29:37

#comment


*1 唯一 SCE がそれに少し近かった。
*2 もちろんそれはその会議の場での話であるので、そうではない営業・広報さんもいると思う。
*3 ポスター、チラシ、ウェブサイト、特典などなど。
*4 体験版やデモ・ムービー、壁紙とかミニシナリオとかウェブ小説などなど
*5 だた開発の佳境で広報素材を作る必要はなくなるが。

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