やって来ました、花小金井公園。 春が来ると、桜咲き乱れるこの公園は、夏は緑で満開になる。深緑は、ずっと私を包んで、どこまでもどこまでも続いている。 ここは戦後、グリーン・プロジェクトの一環として造られた都内有数のオアシス……と記憶している。五日市街道をずっと来ると、この公園の正門に出られるのだ。 私はクロッキーを携えて景色を探すよりも、お弁当を食べる場所を探すことにした。初夏とはいえ日差しが強いから、木陰がいいかな。でも、芝生の上も気持ちよさそうだな。などと色々考えながら、私は、公園内にあるサイクリング・コースをずっと歩いてみた。 芝生は誰かが手入れしているみたいで、思ったよりもひどい有様ではなかった。でも木々の中まではさすがに行き届いていないみたいで、自然林の様を呈している。ごっこ しばらく歩くと、日本屋敷が見えてきた。そう言えばこの公園には、江戸建物博物館というものがあったのを思い出した。木造で、今にも傾きそうなその建物は、緑におおわれて少しも衰えていないように見える。 それと対峙しているのが、芝生をはさんでその向こうにあるC62だ。炭水車とブルーの客車2両を後ろに従えている。黒かったボディーは、今では赤みを帯びていて、ボロボロと外装が簡単にはがれてしまうが、私を威圧するだけの迫力はある。彼はずっとここにたたずんで、見てきたに違いない。人のしてきたことを。 私は、SLと屋敷に挟まれた芝生に腰を下ろすと、弁当を広げた。何となく、この二人に挟まれていると、自分も芝生になったような気になる。左手には、木の王者。右手には、鉄の王者。両方とも、人が造ったものだ。それを取り囲むように、緑が広がっている。そう、まるで二つのモニュメントが、はじめからそこに存在した、「自然物」であるかのように、私には思えた。 「来て、正解だったなぁ」 私は、最後のおむすびを口の中に放り込むと、冷たいお茶を飲み干した。ひんやりと冷たい感覚が、体中を駆けめぐる。 さて、最後のシメといこうかな。 私は、バッグからおなじみのクロッキー帳を取り出すと鉛筆をかまえた。 「どこも、捨てがたいなぁ……」 と、つぶやいた矢先、ザ────っという大きな音が、私の頭上で流れた。 風だ。風は生い茂る枝葉を揺さぶる。私はその中でも、一際自己主張する木を見つけた。その枝葉は、ずっと日本屋敷の方に延びていて、ちょうどもたれかかっているように見える。 「はいはい、あなたたちを描いてあげますよ。SLさん、今日のところは勘弁してね」 その風景は、自然と人工とがまるで手を取り合ったように見える。 作成日 不詳
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