ミラーの力

エロゲには「ミラーサーバ」という文化がある。誰が始めたのか知らないが、体験版やムービーなどの大きなデータは公開時にアクセスが集中すると回線がパンクし、誰も落とせないような状態になってしまう。その転送量は凄まじいもので、1 日で 1000 GB近くにもなる。普通のプロバイダだったら帯域制限どころか、契約を切られてしまうところだ。
そこでそれらを支援しようと、エロゲの体験版などを置いてくれる人たちがいる。これは公式でも何でもなく、有志の人たちで成り立っている(ボクの知る限りでは、だが。どこか流通やメーカーから支援を受けている人もいるかもしれない)。エロゲ・メーカーによっては、自分のサイトには一切置かず、このミラーサーバのみに頼っている所もある。

個人的にはこのミラーサーバに頼るというのが未だに解せない。最も体験版などは公開されているものだから、それを転載するなと言うのは無理な話だし、そもそも広報活動の一環であるから、転載はむしろ歓迎である。ただ、そのミラーサーバに置かれているデータが果たして本物かどうかは、ボク(サイト運営者)は保証出来ない(本家がハッシュなどを公開していれば、改竄されているかどうか解りやすいが)。

今のエロゲ・メーカーは体験版などを公開するとき、これらミラー・サーバをとりまとめてくれる人に連絡を取り、先にデータを渡しておく。そしてしかるべき公開日に公式と合わせてミラーも公開してもらうと言う方法をとっている。
一方ボクは、ミラーさんにはお構いなく、公式で公開してしまう。ミラーはミラーで好きに転載すれば良いというスタンスを取っている。ただそれをやると、公開直後はアクセスが集中し、ミラーさん自身がデータをとれないことがあるため、最近では開発用の回線(こちらの回線はまったく別なのでサイトにお客さんが集中しても影響しない)にミラーさん向けのデータを置き、ミラーさんにはそちらからダウンロードしてもらうようにしている。

話はそれるが、現在ボクが管理しているメーカーのサイトは公式サイトとは別に転送量無制限のダウンロード専用サーバを用意している(関連記事)。かつては、自社で契約しているプロバイダを利用していた。固定 IP を契約して、サーバを立て、メーカーのサイトもダウンロードもそして開発も全部一つの回線だった。ところがコレをやると体験版が公開されたときに回線がまったく使い物にならなくなり、開発にも影響が出るだけでなく、プロバイダからきついお叱りを受ける。
ただし、OCN の法人サービスだけはこれに耐えた(OCN の法人コースは転送量無制限)。

閑話休題。
で、5 月に体験版第一弾をリリースしたのだが、ほぼ二日間、契約帯域である 100Mbps をすべて使い切っていた。訪問者数は初日が 1 万人、二日目が 8,000 人であった。出来たばかりのブランドで、一日平均 2,000 人しか来ていないサイトだったのだが、体験版が出たとたん、5 倍の訪問者数となった(この訪問者数というのはユニーク IP の数である。また、バナー表示のみの IP 含まれていない)。
そしてこのアクセス数の増加は、ミラーサイトでこちらの体験版が転載されてからのことであった。つまり、1 日 2,000 人程度のサイトに、ミラーに体験版が乗ったことで 10,000 人になったワケである。もちろんずっと 1 万人来るわけではない。なんだかんだで、三日目には半分以下の 4,000 人に、四日目は3,000 人と落ち、なんだかんだで 1 週間後に訪問者数は安定してしまった。ただ、安定した数字が 2,500 前後となり、体験版公開前より 500 人ほど増えた。この 500 という数字はおそらくミラーサイトによってうちのブランドを知って、そして気になってくれた人たちなのであろう。

なるほど、どうして他のエロゲ・メーカーはミラー・サイトと協調して体験版を公開するのかようやく解った。ミラー・サイトはそれだけ客を呼び込む力があるわけだ。これは即ち、メーカーのサイトに見に来て情報収集しているわけでなく、単純にミラー・サイトをチェックしているユーザが多いと言うことなのだろう。
そして新たな疑問も湧く。それってつまり、体験版にしか興味がないというと言い過ぎなのだろうが、体験版が出るまでメーカの情報を拾わないユーザがかなりいるのではないだろうかと言うことだ。
うちのサイトの場合、少なくとも体験版後に増えた 500 IP に関しては今まで取りこぼしていたお客さんと言うことになる。これは 500 人とは限らない。毎日来ている人はそんなにいないだろうし、時々来る人もいるってことを考えると、500 人以上増えているのではないかと予想している。

いやー、ミラーの力は凄いなぁ。
けれどやはりこのミラーの文化には違和感をおぼえる。今後はこの取りこぼしていた人たちにいかにして情報を伝えるかが重要になってくるような気がしている。とはいえ、体験版をチェックしている人たちだろうから、体験版でしか釣れないような気もしている。
例えば 1 シーンだけをピックアップしたタイニー体験版みたいなのをたくさん作ったら、彼らは来てくれるんだろうか?
そして気になるのが、実は体験版だけでヌければそれでいいやっていうユーザもいるんじゃないだろうかとも思っている(それはユーザと呼んでいいか迷うがw)。
今後もサーバのログとにらめっこしつつ、いろいろと考えてみたいと思う。
そんなエロゲ・サイト管理者の感想でした。